振袖

20歳の思い出、成人式。私には成人式の思い出がない。
学校が私立で地元の成人式式典に行っても知り合いがいないという理由もある。
1週間後には試験が始まるという時期で試験勉強をしていたかな。15日にあるラグビーの試合を見ていた記憶もある。
私は四姉妹の3番目。姉2人も振袖は着なかった。つまり我が家では振袖の用意がされなかった、ということなのだ。そして誰も成人式の式典に出席していない。

姉妹の誰か、振袖を着たい!と親に言ったのか。誰も着たいと思わなかったのか。
私は着たかった。が、着たいと親に言うことはなかったし親から打診されもしなかった。
最初に買った着物は二十代の時に自分の稼ぎで買った加賀友禅の訪問着だ。50万ちょっと。

長姉は借りた振袖ではあるが姪に着せてあげ写真を撮った。障害のある姪だから振袖はその1回きりだと割り切ったのだろう。よく似合っていた。
次姉のところは女の子一人だが、その姪に振袖を買ってあげたと聞いている。後になって写真を見せてもらった。

私は私のパート代で娘に振袖を買った。小物も合わせると150万くらいしたと思う。
最初、娘に「振袖どうする?」と聞いた時に「もったいないからレンタルでいい」と言われたけれど、買ってあげるよ、と言ったら何度かのやり取りの末遠慮がちにありがとうと言われ買うことに。
古都である某市の老舗の呉服屋さんへ連れて行き選ばせてあげた。一応予算は100万と伝えその中で選んでもらった。最終的に本人が気にいるものが100万ギリギリで見つけられた。

ところで、我が家はカトリックなので月曜の成人式式典の前日にも教会で成人のお祝いがある。2日続けて振袖を着ることになる。着付けとヘアセットのお値段も2倍だ。しかしそこで「教会は洋装で行って」と言うことはなかった。遠慮はされたけれど気にしなくていいよと伝えていた。 結局、彼女は2日続けて振袖を着ることになったのだった。

さて、あれから2年。先日の教会の委員会で今度の新成人のお祝いについて打ち合わせがあった関係で、家に帰ってきてから娘と話をした時のこと。
結局翌日の式典がメインだから2日続けて着るとお金も嵩むし着ない人もいるよね、と私が言いましたら、娘が「でも、教会で振袖で前に立ってお祝いしてもらうっていうのを小さい頃からずっと見ていてあれは憧れだった」とぼそっと。ああ、色々遠慮していた娘だったけれど、結局憧れはずっとあって、その憧れからの夢は私が叶えてあげることできたんだ。と、じわっときた。
私は一言「そっか、着物で出れてよかったね」と返しただけだったけれど、自分が親にしてもらえなかったことを自分は子供にしてあげられ、子供はそれを望んでいた事だった、その望みに気づいてあげられたんだ、という事実にじんわりできたのだった。